冷えた夏みかん

日々妄想、問答。

星になった猫

あいつは札付きの悪だったさ、という奴もいれば、いいえあんなに良い猫はいなかったわ、という声もあり、どれが奴という猫となりを表すのかさっぱりわからぬ。猫生とは斯くも複雑なものか。

 

私は目下いとこが連れてきた赤ん坊を背に負ぶいながらこれを書いている。私は記者のような真似ごとをして、生前関わり合いもなかった猫について記事を書こうとしている。

発端はウェブ上にて、ライターとして働いてみないかという口コミに誘われて。

 

私が精神に異常を来し、以来ネズミが見えるとまるで人間のようになって追い回すという悪癖に憑りつかれてから、10年以上経つ。

私は目下掛かりつけの精神科医猫田先生に診てもらいながら、「ああ私の猫生とはなんなんでしょう先生」と弱音を吐き、「挫けてはいけないよ、きっと良くなる、それが猫生というものなんだから」と相田猫生のような前向きな言葉を頂き、感激して家に帰り、家内の前で泣いたという次第で。

 

それなら子供の面倒でも見て、いっちょ元気になってはといとこが子供を連れてきてくれるようになって、さあ私はこの子にとても癒された。懐いてごろにゃーごと喉を鳴らしてくれるのが何より嬉しい。

私はおい、ミルクが切れたよーうと声を掛け、自分で入れなさいそのくらーいと家内に返されて、はいはい、と説明書を読みながらせっせとミルクを作っていた。

哺乳瓶であげること数十分、いとこの赤子は寝てしまった。

 

さてそこに訃報である。突然テレビがぴろんぴろんぴろん、となり、猫田ノーベル文学賞の先生がお亡くなりになりました、19歳でした、とテロップが流れ、やれ長生きだったんだなぁ、と家内とため息を吐き、私は嫌だよそんなに長生きするのは、とネズミが駆けるのを見てうずうずする尻尾を叩いて、薬のヤモリを飲み込んでから拗ねたようにそう言うと、あなたじゃせいぜい14,5歳ですよ、と家内が訳知り顔でこう言った。

 

雌猫だけですよそんなに今時長生きするのは、とこうである。

たは、これには敵わない。

 

あいたたた、と持病のネズミ我慢の胃の痛みが来て、私も早く猫又になりたいよ、と冗談を言ったら、本気で頭を叩かれた。

 

氏のうわさ話を追いかけて走り回っていたが、遂に正体掴めず、この雄猫には大きな山だったかと不承不承筆を折った訳で。