冷えた夏みかん

日々妄想、問答。

毛生え薬の効能や如何に。

父が毛生え薬を使い始めたと聞き、早速地元の京都まで足を運び、いない間にしめしめと洗面台に入ってその薬を手に取り、数的垂らして匂いを嗅いだ。

 

うむ、なんともオーガニックな良い匂いがする。

 

私は父を身内に晒し者にすべく、早速兄に薬の写真を送りつけ、ついでに昨日誤って剃ってしまった眉毛のところにちょんちょんと付けておいた。

 

その後はほのぼのと祖母が飼いだした犬を可愛がり、焼きそばを焼いてその鉄板でご飯を炒め、葱とソース、塩コショウを少々振って食べた。

実家にいた弟の部屋を訪問し、相も変わらずヘビースモーカーで映画狂な奴を連れてコンビニへ立ち読みに行き、月間マガジンを読んでから、るるぶをぺらぺらした。

弟は煙草をまた買うので、「お前いつか死んじゃうよ」と言うと「構うもんか、一回ぽっきりの人生ひどくたって痕残せりゃいいさ」と言うので、まお前の人生だよ、と無責任に死刑宣告をした私は軽い気持ちで死神と家へ向かった。

 

その後二階にて炬燵で松竹映画を見ていると、兄から「マジか」とメールが入り、「マジマジ」と返して、それから返事は無かった。

映画は悲恋物で、なんとも風情ある昭和の時代だった。悲しい中にも笑いがある。

 

それから5時になり、町中のスピーカーからチャイムが流れ出し、私は最近、銭湯に行った際「あ、そっち女湯ですよ!」と言われたことを思い出し、弟のパソコンでブログに書いた。

弟の待ち受けは何かのゲームの主人公だ。軍服を着てポーズを取っている。

母が「湯たんぽいるー?」と階下から叫び、「いらーん!」と叫び返した。

上から見ると母は少女のようだった。

 

それからエンジン音がし、犬が吠えて父が帰ったのだと分かった。

弟は意味なく飴を口に入れては吐き、煙草の魔力をなんとか逃していたが、私は見て見ぬふりをしていた。

上がってきた父がゴミ箱を見て、弟をどついてから、「おかえり」と私に言った。

 

私は長く留守にしていた時間を思った。

父の頭はふさふさしているのに、父は毛生え薬を買った。何か思うところあってのことだろうか。

私は「ただいま」と答えた。

 

夜、私は眉毛がなんだか痒かった。

そして朝起きて顔を洗い、鏡を見ると眉毛が一部金髪になっていた。

 

へ!?と思い毛生え薬のボトルを持って、祖母に確認すると、「それ婆ちゃんの毛染めが入っとんねん」と祖母はことも無さげに答えた。

 

「やーい、引っかかった引っかかった」と母が笑ってケータイをかざしていた。

私はそうかそういう人だった、と母の人柄をまざまざと思い出し、笑えてきて「なにー、どうすんのこれ、マジックで塗るしかないじゃん!」と声を上げて悔しがった。

 

母は生き生きとしている。

長寿な祖母はイエローブラウンな髪を撫でながら、「そろそろ染めなあかん思ててん、染めてくれる?」と言った。

 

一連のやりとりを見ていた弟が牛乳をぶーっと吹いた。

げは、げは、と言いながら指さして口元を拭っている。

 

私は「なんじゃこの家族は」と思いながらも、明日も明後日もどうにかなるさと思った。

 

夜に兄に眉毛の画像を送信したら、「マジか笑」と返信が来た。

父は今日もドロドロになって返って来て、「おうまだいたのか」と私を見て、ぶはっと笑った。

柔和な笑顔に、誰かの面影を見た。