冷えた夏みかん

日々妄想、問答。

兄弟が泣くと。

弟が泣いている。音楽を聴きながら泣いている。

 

私は奴が普段から一人で過ごす人間不得手なのは知っていたが、泣くほど悲しかったとは初めて知った。

パソコンの相手などせず、素直に寄ってくればいいのに。

そう思って手を尽くせば尽くすほどに離れていく奴を見ては、哀れ、と思っていたのだが、今回は、重症らしい。

 

哀れ、しかし私の助けはいらないのだろう。

私は奴が薄情者なのを知っているし、奴がそれほど恩を返す訳でも感謝出来る人間でもないことを過去の体験から嫌と言うほど知っている。

恩を仇で返されたこともある。あの時は本当に、どうかしてやろうかしらこいつ、と鼻白んだ。

 

しかし兄弟とは不思議なもので、しょげていると思うと自分のことのように気になってしまう、私は絶対不幸体質だ。

今日も奴に「お茶飲むー?」と声を掛け、「うっせバーカ」と言われ、ついでに「これ捨てといて」とペットボトルを投げられた。中には煙草が詰まっていた。

 

かはッ。

 

私は善意を披露してしまったのを不覚に思い、以後も奴に関わるのは一切止めようと思った。

しかし私のこういう所が案外助けになるようで、奴は夕飯を素直に食べ、「ごちそうさま」とその日は一言言い、やけに素直だった。

 

どこまでも下手くそで、どこまでもへそ曲がり。

 

しかし捨てる訳にもいかない。奴は私の弟なのだ。

私は人には誰しも救いがある、という内容のブログを書きながら、奴が下りてくるのを待っている。

何故なら人数分のドーナツを買ってあるからだ。

 

人に尽くしてしまう私はやはり不幸体質だろう。しかし誰かの幸福にはなり得るだろう。

こうして一緒にいられる間は、可愛がってやろうじゃないか。

私は少し大人目線で、奴を見ている。ただ、見ている。眺めている。

 

奴は今日も涙目作って、一生懸命頑張って息をしている。

生きてろよ、と思う。明日も明後日も来年も、ただ生きていろよと思う。

 

だって私が生かされたいから。

 

どうせ人間皆勝手なんだ、だったら私も、勝手な事情作って生きてやる。

だからお前も、生きてろよ、出来ればもう少し楽しみな。

 

そう思いながら、一階のリビングで祖母とテレビを見ながら、私はお茶のお代わりをした。

 

この頃熱いお茶が美味しい。

あの子はまだ機械弄ってるの、と祖母が聞いて、野球のホームランが出たとき「あーーー!」と声を上げて身を乗り出した。

相変わらずミーハー婆ちゃんだなあと思いながら、母の寝ている隣室の障子を閉めた。

 

弟は、まだ降りて来ない。早く食べたいのに。